マタニティワンピース

マタニティワンピースのことを私はずっと敵視していました。なぜならそれはたとえば小学生が制服を着て自分が小学生であることを周囲にわからせたり、看護婦がナース服を着て病院の中でえらそうに歩き回り患者を怖がらせるのと同じような効果があるからです。
まるでマタニティ用ワンピースを着ていれさえすれば、自分が女としての仕事を果たしているといったようなエゴが見え隠れするのもきらいです。子供を産むことが女としての最高の仕事であると誇張するある種の女たちが好む制服こそ、マタニティワンピースなのです。
マタニティワンピースさえ着ていれば、電車で人は席を譲ってくれますし、八百屋さんはみかんを一個サービスしてくれることでしょう。またマタニティワンピースのえもいわれぬ柄や色合いは殿方の性欲を抑え、マタニティワンピースを着ている女を聖母マリアに仕立て上げるのでしょう。
しかしマタニティワンピースのこうした威力は近頃減退気味であります。よろこばしいことに世間ではこの制服を好まない女たちが、妊婦が、増えたのであります。女たちは妊娠前と変わらぬ服に身を包み、自分が妊婦であることを隠そうとさえします。こうして現在誰が妊婦であるかを見分けることが難しくなっているのです。
世間がこういう風潮になると、不思議なものでひねくれものの私は、あえてあれほどきらっていたマタニティ用ワンピースを着てみたいと思ってしまうのです。